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岡山に来たので、岡山市内の建物をいくつか見学してきました。 まず訪れたのは、日本三名園のひとつ「岡山後楽園」です。 後楽園は、江戸時代に岡山藩主・池田綱政によって造られた大名庭園で、広大な芝生や池、築山が巧みに配置された回遊式庭園です。園内には、延養亭をはじめとする古い日本家屋がいくつも残っており、広い庭と相まって四季折々の美しい景色を楽しむことができます。 こうした昔ながらの、こじんまりとした建物は、どこか落ち着きがあり、とても魅力的に感じます。 自然との調和の中に美しさを見いだす日本建築の良さを改めて実感しました。 そして、ぜひ訪れてみたかったのが「流店」です。 この建物は、建築家・竹原義二先生の著書『竹原義二の視点』の表紙にも登場しており、以前から一度見てみたいと思っていました。 流店は、後楽園内にある茶屋の一つで、建物の内部を小川が流れる独特のつくりになっています。 建物の名の通り「水の流れを楽しむ」ための空間で、静かに流れる水音と、開け放たれた座敷から見える庭の緑が心地よく調和しています。 内部から眺める庭と軒先の低さのバランスが、何とも言えない心地良さを生み出していました。 建物のスケールや素材、そして自然との距離感の取り方に、日本建築の美しさと奥ゆかしさを感じました。 続いて訪れたのが「岡山城」です。 岡山城は、豊臣秀吉の家臣・宇喜多秀家によって築かれた城で、慶長2年(1597年)に完成しました。 外壁に黒い下見板が用いられていることから「烏城(うじょう)」とも呼ばれています。 戦災で一度焼失しましたが、昭和41年に再建され、令和の大改修を経て、現在は天守閣内部が資料館として公開されています。 この日はちょうどイベントが行われており、「鉄砲隊による演武」を見ることができました。 300年前の鎧を身にまとった侍たちが、当時の火薬を使って火縄銃を放つ姿は迫力満点。 轟音とともに白い煙が立ちこめ、会場は大いに盛り上がっていました。 天守閣からの眺めも楽しみにしていたのですが、窓が小さいため、外の景色はあまりよく見えませんでした。 現在は城内が資料館として、岡山城の歴史や復元の様子などを詳しく学ぶことができます。 そして次に訪れたのが「岡山県庁舎」です。 この建物は、巨匠・前川國男氏の設計により、1957年(昭和32年)に竣工しました。 戦後復興期の公共建築を代表するモダニズム建築で、鉄筋コンクリート造による端正な構成と、深い庇がつくる水平ラインが印象的です。 岡山市内にはこの県庁舎のほか、「林原美術館」や「天神山文化プラザ」など、前川氏の設計による建築が点在しております。 エントランスには迫力のあるピロティと回廊が設けられ、建物全体に重厚さと開放感を与えています。 黒い外壁部分はカーテンウォールで構成されており、当時としては先進的な意匠のようです。 その構造によって、自由な平面、自由な立面、水平連続窓が実現されています エントランス付近に行くと、チラシが貼ってあるのを見つけました。 よく見ると「おかやま 前川建築みてあるきツアー」の案内。 しかも、ちょうどこの日が開催日だったのです。 事前予約はすでに締め切られていたのですが、ダメもとで聞いてみたところ、なんと参加OK! おかげで、岡山県庁舎を見学させていただくことができました。 ル・コルビュジエによって提唱された「近代建築の五原則」 ①ピロティ、②屋上庭園、③自由な平面、④横長の連続窓、⑤自由な立面。 岡山県庁舎は、これらすべての要素を備えた建築となっており、前川國男氏が師コルビュジエの思想を継承した作品といえます。 2階のホールからは、サンクンガーデンを望む 窓のガラスは当時のままのガラスが使われており、表面がわずかに歪んで景色が柔らかく映ります。 サッシもスチール製のオリジナルのままで、時を経た素材の質感が感じられました。 内部にある食堂の一部には、かつて銀行として使われていた部屋が残っており、当時の壁や金庫の扉が今もそのまま保存されています。 壁の厚さは驚くほど厚く、重厚さを感じました。 また、この建物には3カ所の螺旋階段が設けられており、いずれも当時の姿のまま大切に保存されています。 当時としては最先端のデザインだったことが伝わってきます。 庁舎内の展示ブースには、建設当時に制作された縮尺1/200の模型が展示されていました。 当時は、石膏を削り出して一つひとつ手作業で作られたそうで、その精巧さと完成度の高さに驚かされます。 こちらは、現在の建物を再現した新しい模型です。 使用されている材料は、スチレンボードやプラ板など、現代では主流となっている素材です。 製作者の方は、当時の石膏模型をじっくりと観察しながら、その形状や質感をできる限り忠実に再現されたとのことです。 当時使用されていたカーテンウォールの実物も展示されていました。 昔のものはスチール製で、断熱材も入っておらず、冬場はとても寒かったそうです。 現在のカーテンウォールはアルミ製へと変更され、軽量化とともに断熱性能も大きく向上しています。 回廊の手すりに当時使用されていたホローブリックの展示。 現在は軽量化が図られ、構造的な負担を減らすことで建物全体の耐震性能の向上にもつながっているとのことです。 県庁職員の方でも普段は立ち入ることのできない屋上まで案内していただきました。 屋上からは、岡山城をはじめ市内を一望する素晴らしい景色が広がっていました。 お城の天守閣よりもはるかに眺望がよく、街並みや山並みまで見渡せる圧巻の眺めです。 さらに塔屋の展望室にも上がらせていただきました。 こちらは当時の県知事お気に入りの場所で、 「この屋上に案内すれば、瀬戸内海の鯛や備前平野のマスカット以上のご馳走である」 という言葉が残っているそうです。 螺旋階段を上り塔屋最上階へ 最上階の展望室からは、360度にわたって岡山市内を見渡すことができます。 この展望室の床は、上部構造から細い鉄骨ブレースで吊られており、床が揺れる仕組みになっています。 今でも多分珍しい構造的工夫であり、遊び心のある塔屋として設計されている点が印象的でした。 県庁舎の素晴らしい点は、耐震改修を行いながらも、当時の趣をそのまま活かしているところです。 今後50年の使用を見据え、構造体の中性化対策をはじめ、制震ダンパーの設置、大規模災害時に備えた電気・通信インフラの増強、浸水対策などが丁寧に施されています。 歴史的建築物としての保存と、現代的な安全性の両立が見事に実現されており、とても意義のある改修事業だと感じました。 続いて訪れたのは「林原美術館」です。 岡山の実業家・林原一郎氏の遺志を継ぎ、1963年(昭和38年)に岡山美術館として完成したもので、設計は前川國男氏によるものです。 前川氏にとって初めての美術館建築であり、手作業で積み上げられた不揃いな形状のレンガが特徴的です。 周囲の緑と調和しながら、落ち着きのある佇まいを見せていました。 内部のロビーからは庭を望む プレキャストコンクリートでつくられた手すりは、装飾的でありながらも落ち着いた存在感を放ち、 当時のスチールサッシがそのまま残る外壁は、時代の趣を感じさせる構造現しの仕上げとなっています。 エントランスとロビーをつなぐ位置に中庭が設けられており、建物内部に自然光を取り込む明るい空間となっています。 最後に訪れたのが「天神山文化プラザ」です。 この建物は、前川國男氏の設計により1962年(昭和37年)に「岡山県総合文化センター」として建設されました。図書館・展示室・ホールなどを備えた複合文化施設です。 南側では夏の日差しを遮るために横ルーバーが、北側では西日を防ぐために縦ルーバーが設けられており、 日射のコントロールと外観のデザインが一体となった合理的な構成になっています。 1階と2・3階はT字型に直行するように計画されており、 2階の下部はピロティとして開放され、広場のような空間を形成しています。 2・3階にかけて吹き抜けとなるロビー。 全面ガラスのエントランスが、建物全体に透明感と開放感を与え、何とも言えないかっこよさを引き出しています。 休憩所からは豊かな緑を望むことができます。 こうした内部空間から外の庭を眺められる構成が、とても魅力的だと感じました。 岡山市内には、本当に素敵な建物がたくさんありました。
まだまだ自分の知らない名建築も多いのだと思います。 よく歩き、よく見て、心も体も満たされた、とても有意義な2日間となりました。 Comments are closed.
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