昨日は、株式会社インテグラル創立40周年記念特別セミナー「木造建築のこれからを考える」に参加してきました。

インテグラルさんは、木造住宅の構造計算や耐震診断、省エネ計算などで使用されている「ホームズ君」シリーズを開発されている会社で、弊社でも日頃から構造計算などでお世話になっています。

セミナーの冒頭では、インテグラルの柳澤泰男会長、藤間明美社長から、これまでの40年の歩みと、これからのホームズ君についてのお話がありました。

PC-9801、MS-DOSの時代から始まり、Windows、インターネット、クラウドへ。そしてこれからは生成AIを設計者を支えるアシスタントとして活用しながら、構造、省エネ、耐震診断などの情報を共通データでつなぐ「木造特化型BIM」へと進めていく構想が紹介されました。

法改正やBIMによる確認申請など、木造住宅の設計を取り巻く環境も大きく変わっていきそうです。


最初の講演は、東京都市大学名誉教授の大橋好光先生。

能登半島地震の被害状況と、木造の応急仮設住宅、復興住宅についてのお話でした。

特に印象に残ったのが、液状化による被害の大きさです。

震源地周辺だけではなく、100kmほど離れた地域まで広範囲に液状化が発生し、建物が基礎ごと移動したり沈下したりする事例も紹介され、想像していた以上の被害に驚きました。

また、2000年以降に建てられた比較的新しい住宅でも倒壊した事例があり、壁量や金物だけではなく、上下階のつながりを含めた構造計画の大切さを改めて感じました。

木造の応急仮設住宅についても、使用後に解体するだけではなく、公営住宅や持ち家として使い続ける取り組みが進められており、その後の暮らしや街づくりまで考えたものへと変わってきているそうです。


続いて、芝浦工業大学教授の蟹澤宏剛先生。

大工をはじめとする建設技能者が急速に減少する中、これまでと同じ設計・施工方法ではなく、設計から構造、プレカット、施工までの流れそのものを変えていく必要があるというお話でした。

確認申請を出してから構造やプレカットを検討するのではなく、設計の早い段階から構造設計者やプレカット会社、施工者が関わり、構造や納まりを整理していく「フロントローディング」という考え方も紹介されました。

また、数年後にはBIMデータそのものを利用した確認審査も予定され、そのデータ連携には国際標準であるIFCが中心になっていくとのこと。

BIM、IFC、CDEなど、設計を取り巻く環境はかなりの速さで変わっています。

なかなかついていくのも大変ですが、数年先にはこれらが当たり前になっているのかもしれません。ついていけなくならないよう、私自身も勉強していかなければと感じました。


3つ目は、北海道科学大学特命教授の鈴木大隆先生による「脱炭素時代の木造建築を考える」。

省エネや断熱性能だけではなく、これから日本の住宅や建築がどのように変わっていくのかという、大きな視点からのお話でした。

日本ではこれまで、人口や社会が停滞・減少する時期に気候変動や自然災害などが重なり、その都度、大きな転換期を迎えてきたとのこと。

現在も、気候変動、人口減少、高齢化、AIの進展、資材供給の不安定化など、さまざまな変化が同時に進んでいます。

中でも考えさせられたのが、大工をはじめとする職人の減少です。このまま進めば、本当に住宅をつくる人がいなくなってしまうようです。

性能や技術だけではなく、地域の木材や職人を活用し、地域の中で経済を循環させていくことも、これからますます重要になってきます。

また、既存住宅についても、一度の改修で完成形を目指すのではなく、必要な場所から部分的に改修し、長い時間の中で断熱や耐震性能を段階的に高めていくという考え方も印象に残りました。


最後は、建築家の堀部安嗣先生による「これからの住まい」。

特に印象に残ったのが、「利他」と「利己」についてのお話でした。

私たち設計者は、お客様のために良いと思ってさまざまなことを考えます。しかし、「こうすれば喜んでもらえるだろう」と考えたことが、必ずしも相手にとって良い結果になるとは限りません。

堀部先生がご両親のために設計された住宅で、住み始めてからお母様がインタビューを受ける機会があり、「この家で一番気に入っているところは?」と聞かれたそうです。

その時のお母様の答えは、「触ったら水が出る蛇口」だったそうです。

設計者が良かれと思って考えたことと、実際に暮らす人が感じる価値は必ずしも同じではないという、とても考えさせられるお話でした。

また、これからの住宅は「量」から「質」の時代へと移り、耐震や温熱といった性能だけでなく、意匠や地域、街並み、未来へつながる社会的な質も高めていく必要があるとのこと。

その中で紹介されたのが「90」と「30」という二つの環境です。

高断熱・高気密による安定した室内を「90」とし、サンルームや深い軒下など、風や光、季節の変化を感じる中間領域を「30」とする考え方。

安心して戻れる「90」の環境があるからこそ、「30」の場所へ出て自然の変化を楽しむことができる。

性能を高めることと、自然を感じながら暮らすこと。その両方を住まいの中につくっていくという考え方が印象に残りました。

4人の先生のお話はそれぞれ異なるテーマでしたが、これから木造住宅を取り巻く環境が大きく変わっていくことを改めて感じる内容でした。

耐震や断熱などの基本性能、BIMやAIといった新しい技術、地域の材料や職人、そして数値だけでは表せない住まいの心地よさ。

これからも変化についていきながら、自分たちの住まいづくりについて考え続けていきたいと思います。

インテグラルの皆様、創立40周年おめでとうございます。
貴重な機会をありがとうございました。